もの忘れや認知症の人への支援に役立つ道具たち:

              連載記事

「ぽーれぽーれ」(認知症の人と家族の会) 千葉県支部版千葉県の通信
2014年4月より2015年3月まで連載

 

私は、長年、記憶障害や認知症の生活支援にはメモリーエイドや機器を使うべきであると思ってきました。しかし、そのような発想はいまだ専門家の間でも乏しいと言わざるを得ません。以下の連載を見ていただければ、私が考えたメモリーエイドや、使える機器がたくさんあることがお分かりいただけると思います。なお、以下には図表が添付されていません。また、2017年現在、以下で紹介した機器の中には発売中止になったものもありますので、ご注意ください.

 

千葉労災病院リハビリ科/京都工芸繊維大学拡張コミュニティエイド研究センター
言語聴覚士 安田清

 

2014年
4月号    車椅子や眼鏡のない時代
5月号    ソニーICレコーダーの活用
6月号    回想療法と音楽療法のDVD
7月号    個人向け思い出ビデオを作ろう
8月号    もの忘れ専用日記「新記憶サポート帳」とチェック式日課表
9月号    壁掛け式メモ、時計、収納袋を兼ねた“メモリータペストリー”
10月号    服薬支援機、物探し器、持ち忘れ防止器、質問応答器など
11月号    人形、ロボット、本物の犬などの活用
12月号    見守りや安心を支える機器
2015年
1月号    伝言板、首かけ手帳と“メモリー”ベスト
2月号    テレビ電話でボランティアとの会話、見守り、介護者間相談を
3月号    道具やハイテク機器が活かされるために必要なこと:連載の終わりに

 

4月号 車椅子や眼鏡のない時代
 私は、もの忘れ外来で、記憶の検査や生活上の対処法の指導をしています。標題のタイトルで連載をさせていただきます。私の父親は鴨川近くの漁師でしたが、病気で両足と数本の指を切断、庭などもいざって移動していました。当時は車椅子が貸与されなかったのです。私が学校から帰ると、障子の間からよく外を見ていました。すぐ前の国道の向こうは海でしたが、家が一軒あって見えません。もし、当時車椅子があったら自由に海に身に行けたのにと、45年過ぎた今でも心残りです。もっとも当時は車椅子を見たことがなく、買う余裕もありませんでしたが。
 映画「ラストエンぺラー」をご覧になりましたか?皇帝溥儀は近眼で、西洋人教師が眼鏡をすすめました。ところが取り巻き女官たちが、「あんな西洋の物を使ってはダメ」と大反対をするシーンがあります。
 車椅子や眼鏡のない時代は介護者がおぶったり、手を引いて歩いていましたが、今は車椅子や眼鏡のなどの支援器を使ってもらい、自立を促すのが普通になりました。
一方、認知症の場合、特に日本では支援器を使って自立期間を延ばすという考えが未だ広まっていません。認知症の中核は記憶障害です。例えば、薬を飲んだという記憶が維持できなく、また飲もうとします。
 数年前まで、「お薬どうぞ」という1日3回、1週間分の薬が出てくる薬自動供出器がありました。約2万円で貸与も可能でした。しかし、関係者やマスコミが無関心で販売中止に至りました。(写真参照) 溥儀の女官たちを笑えません!現在、多様な支援機器がありますが、関係者は慣習にとらわれずに常に良いものを探し、作り、かつ広く知らしめる努力をすべき、と思います。
 米国には認知症の人向け各種道具の通販専門店がある
自宅の位置記憶が思いだせず、道に迷う時などにも、記憶を助けて支援機器、すなわち“メモリーエイドが必要なのです。重度の場合には心理的な支援も加えてゆきます。進行する場合はメモリーエイドを替えてゆきます。幸い、薬の時間を教えてくれる、財布を探してくれる、いつでも孫と話せる器械や、GPSのついた靴など良い道具が出てきました。すでに、米国にはAlzheimer’ s Store という、認知症の人向け各種道具の通販専門店があります。この連載では、認知症があっても有効に使えると思われる道具を紹介させてもらいます。しかし、万人に有効なものはありません。仮に100人に1人しか使えなくても、残りの99人には他の良い方法を、一緒に考えてゆきましょう。(2014,4,1)

 

5月号 ソニーICレコーダーの活用
 今まで一番有用だった器械を紹介します。「薬を飲む時間です」、「今日はデイに行く日です」など、その時間や曜日に、録音した言葉が出てくる器械があれば便利です。ソニーICレコーダーのアラーム再生機能を使えばそれが可能になります。「薬を飲みましょう」などと録音すると、毎日その時間に声が出てきます。おおくのかたは「本人が操作できない」と言いますが、置いておくだけで自動的に声が出てきます。通常、用件を紙に貼るよりも声で言った方が効き目は強いと思います。
 本体にマイクが付いていますので、そこに用件を録音します。次に出力時間を入れます。これを繰り返せば、毎日100個以上の用件が出せます。「今日はデイに行く」、を月水金に出し、「今日はデイに行かない」を火木土日に出すなど曜日別に出すことも可能です。特定の日だけも出せます。
 電気店で取り寄せてくれます。現在お勤めの品番はAX412Fで、値段は約7500円。ネットで中古を変えばもっと安いです。なお、他社のICや一部のソニー製はこの機能がありません。ご注意!ただ、操作方法はちょっと難しいです。若い人に頼むか、電気店に頼んでみましょう。
 普段の家族の声では、聞いてくれないことが多いので、当院では私の声で録音、時間設定をして貸しています。主治医、ケアマネ、孫の声などを録音させてもらうと良いでしょう。いきなり声が出て混乱することもあります。「器械から私の声が出ます。」などと顔写真付きカードを器械に張っておくのも一法です。ただし、本心がその場にいないと聞こえないので、朝一番、「首からかけましょう」という手もあります。「今日は何日?」など中重度の方は同じことを、例えば、10分に1回聞いてきます。
 これには、まず、「今日は5月4日」使う時はそれを繰り返し(レピート再生)出せば、10分に1回それが流れます。要は、本人が聞き始める前に情報を与え、安心してもらうことが大事です。やる気が出ない場合には、まず、好みの音楽を録音し、それを先に聞かせてから、指示を出すのも有効です。
 「免許返上」、や「デイをすすめる」医師、ケアマネの話などを録音させてもらい、「運転は続ける」など言ったら、これらを再生し免許返上に成功したこともあります。
 役所や保険会社の人の長くて複雑は話を録音できるという点では、一般の方にお勤めです。一部のケータイやスマホでも可能かもしれません。若い方に相談してみてください。中軽度の人への成功率は6,7割ぐらいです。重度の場合は夕方音楽だけを出すなどに使えると思います。

 

6月号 回想療法と音楽療法のDVD
  以前、ある本に“歌を歌いながら次の行動を促した”という経験が載っていました。ならば、と思い前回紹介IDレコーダーから、デイサービスの迎えがくる直前に歌を出し、自動的に歌を出し、直後「散歩に行こう」と私の声で誘いました。すると、喜んでデイに行ってくれた方がいます。音楽の力はすごい!と実感しました。
 10年以上前、米国には認知症の人が好みそうな話題や歌をゆっくりと語り、歌いかけるビデオがありました。そこで、日本人向けに私の友人に助けられて作ったのが、語りかけビデオ(DVD)2種(春夏秋冬、ふるさとへの旅、各1890円)です。また、それらの歌だけを集めたなつかしの唱歌(DVD)2940円もあり。エスコアール社(0438-30-3091)から市販中、回想法としては、昔使っていたさまざまな道具や行事、例えば、洗濯板や餅つきなどを映画で見せる懐かしの玉手箱(シルバーチャンネル;03-6206-2134;5715円)があります。「これはどう使うの」など孫から聞いてもらうと、教えることで自尊心の回復につながります。パソコン回想法(エヌ・プログレス;052-269-8155;DVD版は1万円)もあります。昔の道具や風景などが、質問や解説などと一緒に出てくるものです。よろしければ、お試しを。

 

7月号 個人向け思い出ビデオを作ろう
 先月の語りかけビデオ(DVD)などは、重度化すると理解できなくなります。そこで、個人向け回想ビデオ、「思い出ビデオ」を考えました。これは本人の写真をビデオに録画し、「きれいね!若いね!」などの“ほめる”ナレーションと唱歌などを3-40分間録音したものです。テレビ番組はすぐ飽きても、これは集中して見れる方が多いです。「ビデオを見た後は、昔の母親に戻ったようにやさしくなる」との感想ももらいました。結局、この方は3年間同じビデオを見ていました。常に怒っている人が、満面笑みになったのも目撃しました。
 音楽を流しつつナレーションを発し、同時に録画すれば簡単です。若い人やボランティア(センター?)に頼んで下さい。最近のカメラは動画も取れます。それをSDカードやDVDにすれば、DVDデレビやパソコンで見れます。お勤めはソニーフォトフレームの動画再生と自動電源on/off機能がついたものです。夕暮れ時の不穏などに対して自動的ビデオの再生が可能です。
 ネットには送られた写真もあります。WBCスタジオ(048-778-7031)、魚津どっとねっと(0765-23-0833)など。ネットで検索を。

 

8月号 もの忘れ専用日記「新記憶サポート帳」とチェック式日課表
 認知症の中核は記憶障害なので、軽度であれば自らメモや日記に記録し、常に参照すべきです。しかし、従来の日記帳は「夜にまとめて書く」習慣のため、かけなくなります。そこで、20年かかって開発したのが、もの忘れ専用日記「新記憶サポート帳」(エスコアール社0438-30-3090)です。
 1日見開き2ページで、右ページには今日も予定、食事、薬、支出などを書く欄があらかじめ区切られています。このため、後で参照しやすい、「覚えておくべきこと」が覚えるまで毎日書ける、いつも開けておき、常時参照、常時書き込み、など健常者の日記の概念から脱したものです。
 欄の大きさは市販の棚付き付箋紙と同じ大きさです。外出時は持参した付箋紙に書き、帰ったらそのまま該当欄に張れます。
 財布などの物の置き場所探しも多いですね。ページ下部には、よく無くす物が決めた場所にあるか確認する欄もあります。
 左ページは自由ページで、聞いた話を詳しく書く、レシートを張る。漢字や計算を練習する、絵を描く、新聞の切り抜きを張るなどして使います。実行済みの用件メモなども、捨てずにここに張ります。
 口頭で言っても忘れるので、介護者が代わりに書いても良いでしょう。そして、聞いてきたら答えず、サポート帳を見るように促し参照する癖をつけるようにします。
 机にしまうと無くしたり、書くのを忘れます。そこで、長い紐をつけ、紐をたどれば引き出せるようにします。
 すでに、30冊以上書き続きている人がいます。「これがないと生きていけない」、と言ってくれる人もいます。ただ、十分に書けるまでに、半年以上要すことも多いです。3日坊主で終わる人はさらに多いです。ですから、早くから書き慣れておくことが大事です。健常高齢者でも65?を過ぎたら、「夜にまとめて書く」習慣をやめ、以上のような書きかたに改めたらどうでしょう?
 幸い週刊誌「女性自身」が8月のどこかの号でこの新記憶サポート帳を特集します。ご友人などにもぜひご紹介下さい。
 しかし、はじめから認知症が中重度であったら、進行すると書けなくなります。その場合には、チェック式日課表を使います。
 その日に、やるべき日課のみを表にして、卓上に置いたり、冷蔵庫などに張ります。実行後、日課の横にチェックを入れるものです。「安田清、千葉労災病院」で検索すると私のホームベージの「各種カレンダー」から印刷できます。曜日ごとに日課は違いますので、曜日毎にコピーしておき、朝、その日のものを渡すと良いでしょう。

 

9月号 壁掛け式メモ、時計、収納袋を兼ねた“メモリータペストリー”
 良く聞かれること、よく使う物、薬などを分散しておくと、よけいに探すのが増えます。そこで、和洋女子大の嶋根歌子先生と、メモ、時計、収納袋などを壁掛けにした「メモリータペストリー」を試作しました。2枚の写真なその上部と下部です。
 最上部は薬、メモ紙、鉛筆入れです。日付は日めくり暦でもよいのですが、デジタル時計であれば間違いがありません。ただ、画面が暗い機種が多いのが難点。ここにタブレットを入れ、デレビ電話をすれば会話や服装の確認が遠隔でできます。
 伝言板は鉄性白板にすれば、磁性の紙に用件が書け、何度も使えます。手書きのメモは磁石で留めておけます。
 収納袋は写真とは違い、透明がよいでしょう。あらかじめ入れる物を決めておき、名札を張っておきます。そうすれば、何を入れ忘れているか、家族にも一目瞭然です。
 携帯電話の充電器もこのポケットに入れられるとよいですね。一番下のハト目にS字フックをかければ、鞄を吊るせます。
 ここに可愛い孫の写真や本人の昔の写真など入れると注目してくれるでしょう。目覚まし時計やICレコーダーから音や歌を出せばさらに効果的!ただ、これは試作品で未発売です。しかし、100円ショップやネットでは、「ウォールポケット」という名前で多様なものが売っています。それらを組み合わせれば良いでしょう。 

 

10月号 服薬支援機、物探し器、持ち忘れ防止器、質問応答器など
 服薬時に自動的に声と薬箱が出てくる服薬支援機ですが、簡単板のコモライフ社(06-6345-7700)[アラーム付き薬管理ケース]は、1日4回1週間分の薬が入れられ、約2千円です。メディナビ社(03-6265-1863)の「メドマインダー」は、さらに高度な機能がついていて、使用料月5千円の予定で、発売準備中です。その他、1日分、または1回分だけのアラーム付き薬箱も市販されています。
 薬の時間がくると携帯電話にアラームを自動的に送る「田辺三菱おくすりアラーム」http://di.mt-pharma.co.jp/alarm/もあり(無料)。5月号ではソニーICレコーダーから、自動的に「服薬など」を促す方法を紹介しましたが、現在の市販機種はソニーICD-PX440で、約6000円です。
 物探し器ですが、クマザキエイム社(045-401-7486)の「どこいった郎」、エスコアール社(0438-30-3090)の「ここだよ」(約5400円)などが出ています。前者は子機が8個まで増やせます。よく無くす物に3,4センチ角の子機をつけ、探す時親機を押すと、対応する子機が音を発します。例えば、財布に子機をつけ、それを探す時は親機の「財布」ポタンを押せば、財布の子機が鳴ります。子機をはずしてしまう時は、お守り袋に入れたり、孫の写真を張るなどが必要です。その他、スマホからレーダーで探すものも出ています。
 バックなどを置き忘れたりする場合には、旅行用の持ち忘れ防止器があります。親機を自分の体、子機をバックにつけます。バックを持ち忘れて離れたら、親機から音が出ます。本人に子機をつければ、買い物時などのはぐれ防止になります。リーベックス社(048-294-4945)「離れるとアラーム1対3」約4800円。「近づくと鳴る」モードにも変換可能です。本人に子機、トイレの親機をつければ、近くに来た時鳴ります。物探し器にもなります。何度も同じことを聞かれる場合は、言語障害用の器械(VOCA)を質問応答器にします。例えば、パシフィックサプライ(072-875-8008)のLingo(3ヶ月貸与で約5千円)。「今日は何日?」、「お金はいつ入る」などの良く聞かれる答えを録音。本人が聞きたい時にそのボタンを押せばその答えがいつでも聞けます。録音も簡単です。ベルトやポケットにも装着可、ボタンの数は2個-8個から選べます。これらの操作が覚えられるうちに導入したいですね。

 

11月号 人形、ロボット、本物の犬などの活用
 認知症の人が人形を可愛がる現象はよく知らせています。私のある男性患者に犬の人形を見せると、いきなり、鼻の頭をなめはじめました。そこで、同じものを買ってもらったところ、家では自分の食べ物を上げようとしました。女性は赤ちゃん人形、男性は犬やロボットが好きな印象があります。ただ好みがあるので、玩具店で見てから買うと良いと思います。
 現在、話をしたり歌ってくれる人形がたくさん市販されています。ただし、思い通りに話してくれる人形はなかなかいません。そこで、ソニーのICレコーダー(ICD-PX440)に「デイに行こう」などの言葉や歌を録音し、必要時に自動的に出します。ICレコーダーは袋に入れ、背中に背負わせます。私は食欲が減ってきた女性に、以上の方法で音楽や声かけをし、食欲が戻った人を数人経験しました。
 風呂に入ろうとしない方も多いです。このような時は、水がOKな人形から「お風呂に一緒に入ろう」と言わせ、そのあとドリフの「いい湯だな」の曲を出すと、素直に入ってくれるのではと期待しています。
 最近はしり取りをする人形、言ったことを復唱してくれる人形(株)富士マネしておしゃべり、1700円、童話などの昔話をしてくれる(おりこうKUMA-TAN,7千円) 人形、服装や排せつの時間を教えてくれる(ユニタン、ユニケア社約3千円)があります。世話好き人には、哺乳瓶やオムツなどがセットになった人形が良いかもしれません。夜中不安になる方は、人形と寝ると良いと言われています。昨日、寝付きが悪い人6ーツ社)
 犬型としては話しかけに応じる(ドック・コム、TOMY社、1万3千円)、あとを追ってくる(愛犬てつ約1万、イワヤ社)、日時を教えてくれる(おしゃべり柴二郎、約1万3千円、イワヤ社)犬などがあります。画面上を本物のように泳ぐ熱帯魚(マジックアクアリーム水槽型、4千円)も重度の人には良いかもしれません。
 施設向けの高機能、高価格のロボット葉一般には手が出ないでしょう。そこで、飼えなくなったあとの保証があれば、本物の犬や猫を飼うことも心理的な安定や運動量確保になります。さらに、私は本物の犬ICレコーダーやスマホなどのIT機器をつけて「認知症支援犬(ホームベージあり)」を提案しました。そこには育成や支援のアイデアをたくさん載せています。うまくいけば、最新のロボットよりも役立つと思っています。犬好きの若い介護者がいれば試してほしいですね。

 

12月号 見守りや安心を支える機器
 ある場所で音声誘導:家のトイレを探している時、録音した音声で「ここです」と言ってくれる器械がります。人感センサーで反応します。玄関に置いて、「外に行かないで」などと言うのにも使えます。「声・音の伝言板、ヤザワSE53,2千円」。
 夜間伝言呈示:旅先で夜中に目を覚ますと、ここどこ?と一瞬思いますね。中重度の認知症の人は毎晩そうでしょう。明るく発光する文字で「ここは〇〇、安心して」などと書いて示せるボードが各種あります。「アマゾン、LED PRボード」などで、約5千円から。ネットで検索を。
 居場所検知:患者さんには早めにGPS付きのケータイなどに変えるようにいつも指導しています。ケータイを持ってさえいれば居場所は分かります。ICレコーダーの音声で目覚めてもらい、その、直後にケータイを持つよう言うとその持ち忘れが減るでしょう。子供用のケータイはGPS付きで操作も簡単、料金も割安です。ケータイ各社にお問い合わせを。GPSが内蔵された靴「DPシューズ、5万5千円、株チェリー・BPM,03-6804-5948」もあります。セコム社の「ココセコム、0120-85575」は数種の居場所検知が月250円から貸与できます。無料貸与してくれる市町村もあるので、まずは問い合わせて下さい。
 外から見守り:外出から家のなかの様子を見たい時などは、「ケアモニ、東心、03-3862-7371」、「IPカメラ、RU-MI、ワールド社、0538-67-1234、約3万円」などがあり、話しかけも可能です。このほか、スマホとカメラを組み合わせる方法もあり、より安価です。
 外から冷房管理:夏の屋内熱中症が心配な場合、スマホからクーラーを操作できる「パナソニックスマート」があります。0120-081-701に問い合わせを。
 以上の設定が家族でできない場合、パソコンや家電の出張修理会社に頼むのも一法です。1回約8千円から頼めます。ネットや電話帳で探して下さい。
 冷蔵庫などに鍵:「取れない蔵(南京錠式やダイヤル式で2500円、ホビーハウス、0120-24-2764)」で、棚にも使用可。冷蔵庫などの加工は不要です。
 ふろのトラブル防止:水位・温度お風呂ブザー(タカギ、風呂ッピー、3200円、0120-37-5580)は設定の水位、温度になるとブザーで教えてくれます。
 排泄関係支援:便器にオムツなどを詰まらせてしまう時には、「掃除口付き便器、約4万円から、工事費別」があります。家族が便器の横から除去できます。リフォーム業者に相談してください。
 糞尿の感知、吸引、洗浄、除湿などを自動で行う自動排泄処理ロボット「マインレット爽(さわやか)、大和ハウス工業、0120-556-308」は要介護4-5ならば貸与対象機器です。夜間、オムツ交換も不要となり、本人、介護者が安眠できると良いですね。

 

1月号 伝言板、首かけ手帳と“メモリー”ベスト
 伝言板:同じことを何度も聞かれるのはストレスになります。重度になるほど回数が増えますが、内容は定型化します。そこで、100円店などの“鉄製”白板を伝言板として卓上などに置きます。さらに、切り貼りできる磁性シートに、聞かれることの答えをそこに書いておき、白板の裏などにしまっておきます。そして、「今日はデイに行く日」など曜日や状況に応じて、表に張りつければ簡単です。目を引くよう孫や昔の写真なども張りましょう。介護者に聞く前に、自発的にそれに注目してくれる癖がつくと良いですね。日課表を作っておき、やったら○をつけるのも、「やったことの確認」に良いです。
 首かけメモ帳:メモ帳にメモを取っても、小さな字で細かく書いたりして、有効に活用できない人が殆どです。私は軽度の人には定期入れのようなものに、付箋を数枚貼っておきそこに書く、書いたものは一日1ページの日記や記憶サポート帳に張るよう指導しています。領収書なども日記に貼ります。重度の人のメモ帳には良く聞かれることや、簡単な日課表のみを入れます。しかし、メモ帳を持っていること自体も忘れるので、色つき紐で首からかけます。それをポケットの外側にクリップで留めれば、ケータイの市販カバーにメモも付けても良いでしょう。
 服着メモ帳:上記を進歩させ、服に直接装着できるメモ帳を開発、ある革工芸のプロが現在、完成版を作成中です。ただし、高価なので、安価なものもビニール会社に依頼中です。できましたらお知らせします。
 所沢市には認知症のある人の福祉機器展示館(予約)があり、海外からも視察に来ます。この連載で紹介したような道具が見られます。服着メモ帳も展示してありますが、一番人気と聞きました。(お世辞?)
 “メモリーベスト”:認知症の人がよく無くすものはメガネ、財布、鍵、携帯などです。“置く”と忘れるので、置かないで服にしまうよう指導しています。そこで、それらをしまえるような服、すなわち、“メモリー”ベストを開発しています。初期版はポケットが16個ありましたが、実際は4,5個で十分でしょう。さらに、無くす物に伸び縮みする紐とクリップをつけ、ベストから簡単に外せないようにします。鞄につけても良いです。女性用のポケット付きベストは、“通販”のホームページに各種ありますので、好みのものを探しいつも着るよう勧めます。

 

2月号 テレビ電話でボランティアとの会話、見守り、介護者間相談を
 10年前より認知症の方へテレビ電話を介した支援研究を始めました。服薬を勧める動画をパソコン画面に自動的に呈示したり、ボランティア(ボラ)との会話などを行いました。その結果、家族が指示するより画面から音楽などと共に、“他者”が言った方が達成率が良い、テレビ電話の会話はその3時間後でも心理的な安定が続くことを発見(2013Yasuda et al.)。じっくり話を聞けば、落ち着くことをテレビ電話の会話で証明できました!

 現在、計14名の認知症の方と傾聴ボラが月2-4回、約30分間の会話をしています。パソコンボラが出張、無料テレビ電話ソフトスカイプを設定後、担当ボラとの会話を始めます。昔の写真などを画面で互いに見ながらもできます。電源が入れてあれば本人側の操作は不要です(受診時自動応答)。現在、NPO「一歩一歩」として、月500円程度で広く参加者が募れるよう準備中です。介護者間の集団相談も同時に10人まで可能。まず介護者が子供や孫とテレビ電話を楽しんで見ては。

 

3月号 道具やハイテク機器が活かされるために必要なこと:連載の終わりに
 私は15年前からITやロボットによる認知症支援を訴えてきました。今春、安部首相自ら新オレンジプランの一環としてそれらを宣言しました。隔世の感もしますが、内容的には不満です。7年前千葉県認知症対策研究会の一員として提案した遠隔支援や通信費の減額が欠けています。2005年英国は介護者不足を見越して、遠隔支援を宣言、日本でもネット上で介護者がテレビ電話は有効と言い始めているのに、です。
“使える”ハイテク機器ができるためには、本連載で紹介したような簡単で、自立を支援する道具の啓蒙や普及、貸与制度等の基礎的施策が必要ですが、それらの発想もありません。一方で要支援者の切捨て政策なども進めており、認知症支援名目の産業育成では、と疑いたくなります。
 現在の日本は認知症への道具の活用が著しく遅れています。主な理由は従来のリハビリが段々よくなる患者を対象とし、認知症の人を暗に対象外にしてきたからです。医学会全般でも認知症の段階に見合った機器を提供し、自立を支援するという考えがあることを知らない方が殆どです。
 マスコミはNHKを含め国際的な医学有効性指針(Cochrane review)等で根拠が乏しいとされる様々な認知症予防説や脳トレなどを、批判意見なしに垂れ流しています。ある有名な「脳科学者」は、飛んでいる蝶を追いかけると認知症予防になるとまで言いました。予防が困難だから認知症が増えているという現実に目を向けないで!だれが本当の認知症かと言いたいです。
 図は私が考える加齢、認知症、不活性による記憶の低下です。各種の活性化で多少改善しても認知症自体の改善ではありません。認知症になってもなるべく困らないよう機器や環境を整えて事前に準備しておき、いよいよ始まったらそれらで生活を支えるべきだと私は考えています。終活や生前に自分の墓を準備するように、です。
 数年来、「ぽーれぽーれ」に役に立つ道具の紹介コーナーを設けるよう家族の会本部に手紙を出してきました。家族の会は伝統的に心理的,社会的支援を重視し、生活支援や介護負担が減らせる可能性のある道具の紹介がなかったからです。例えば、世に眼鏡という道具があることを知らされずに生活することを想像してみてください!昨年4月号の、理由なく眼鏡を嫌う「溥儀の女管」には賛成できない筈です。
 最近の海外の認知症のネットショップの充実には目を見張ります。今後もますます良い道具が出てきます。そこで、この連載が終わった後、本部に次のことを提案するつもりです:「ぽーれぽーれ」に役に立つ道具の紹介コーナーを設けてください!また、介護保険でそれらが希望者に貸与できる制度を要望して下さい。このような、草の根的な経験の積み重ねや制度があってこそ、安価で使いやすく、真に役立つITやロボットが実現できます。最後に、今までの説明不足をお詫びしつつ、1年間お読みいただいたことに感謝します。