市販機器やハイテクによる支援

 

私は1983年当院に言語聴覚士として勤務、以来、記憶障害者向けメモ帳などの様々なメモリーエイド(記憶補助具)の試作を始めました。その後、これらのメモリーエイドをMCI・認知症患者にも試行しました。具体的には、記憶障害者向け専用日記(新記憶サポート帳)服や体につけるメモ帳、各種カレンダーと日課表、各種伝言板、AT機器やグッズが収納できるメモリーベスト、メモリーバック類、メモリータペストリーなどです。これらは手作り可能で、電源が不要でありLow-tech(ローテク)メモリーエイドとしました。このホームページではそれらを詳しく紹介しています。

 

一方、ICレコーダーなどの市販の情報機器も、認知症の人の生活支援に応用しました。これら市販機器で、電源を要するものはMiddle-tech(ミドルテク)メモリーエイドと呼ぶことにします。具体的には、ICレコーダーなどの音響機器、スマホ、タブレット、PCなどの通信情報機器などの他、服薬支援機器、物探し器、持ち忘れ防止器、人感センサー付音声案内器、夜間情報呈示器、重度認知症向け動画、ゲーム、人形、ロボット、火・水回り・照明・ガス器具、室内見守りシステム、居場所・徘徊検知システム、排泄支援機器などです。

効果の検証としては、パソコンなどを介した思い出写真ビデオによる支援を行い、集中力の維持に効果を得ました。さらに、テレビ電話会話支援で、会話の3時間後でも心理的な安定が続く認知症の人がいることを見出していいます。その後、NPO法人一歩一歩によるテレビ電話支援会を立ち上げ、現在、稼働中です。

 

また、1997年に千葉工業大学の三須と音声出力記憶補助器を開発して以来、多くの工学系大学、研究所と、いわゆるHigh-tech(ハイテク)を活用した生活支援法も研究してきました。例えば、排泄手順提示システム、パソコン上のアニメエージェントとの回想的会話、常同的な独り言やうなり声などを発する人とのコミュニケーション、外出(徘徊)代償システム、エージェントとIoT(Internet of things)およびセンサーによる統合支援システム、認知症支援ロボットなどです。さらに、MCIや認知症の人は機器の持ち忘れ、持つことの拒否、さらに遂行意欲の低下などがあります。そこで、犬が認知症の人を探し出して接近、同時に犬に背負わせた機器から情報呈示を行う「認知症支援犬」の概念を提案しています。4匹の予備実験では、いずれも約3日の訓練で電子機器からの音を聞いて飼い主に向かうことができました。

 現在、AI(人工知能)、ロボットなどのHigh-tech機器が脚光を浴びていますが、High-tech機器だけでは、MCIや認知症の人の生活全体を支え切れないのは明かですLow-tech、およびMiddle-techメモリーエイドによる支援が今後も重要であることは変わりありません。

 詳しくは、拙著「MCI・認知症の生活支援:Assisitive Technologyによるリハビリーテーションん」(エスコアール社)をご覧下さい。

 また、このホームページの左欄の上部には英語版、HOME PAGES FOR ENGLISHEがあり、それを開けると、その下位ページとして、Dementia & AT: Personal Reviewが現れます。その中のAssistive Technology for People with Dementia: Personal Reviewには、2016年までの、主にハイテクを活用した認知症支援の試みなどの文献の紹介を行っています。約180ページです。