学位(博士)論文内容の要旨
失語症者の談話と固有名詞の理解
大脳の言語中枢の損傷によって生じる失語症には、単語や短文などの理解障害が伴う。現在までそれらの理解障害の多くは、一般名詞や短文を文脈や、個人がもつ経験的知識などから孤立させて評価されてきた。日常接する言語素材の理解には、文脈などの知識が必要だが、そのような検討はまれだった。中でも軽度失語症者の談話の理解と、最重度の全失語症者の固有名詞の理解の研究は乏しかった。
具体的には、ラジオニュースやそれらを連続聴取した場合の理解、長時間談話の理解の研究などは、健常者も含めて皆無だった。論者はこれらの理解を軽度失語症者、年代の異なる2群の健常者で3回にわたり実験した。その結果、失語症者は長時間談話の理解が良好なことを見出した。さらに健常者との成績差などから、談話を連続聴取した際の理解と把持の減衰モデルを提案した。
全失語症者は一般名詞の理解に障害をしめすが、地名はよく理解されるという報告があった。論者は、実験から地名よりも人名がより良好なことを見出した。また、人名が不良な群も発見した。これらの結果や、人名の想起障害、固有名詞の言語学的特殊性、臨床データなどを包括的に説明するための人名の脳内処理モデルを提案した。さらに、固有名詞と自伝記憶、意味記憶との関係についても考察した。
日常では、人物や場所などある特定の対象が固有名詞で同定されたあと、それについての情報が談話の中で交換される。また、高齢化に従い、談話内容の記銘力や固有名詞の想起力は低下する。従って、談話と固有名詞の研究は、失語症者のみなならず健常者にとっても重要である。
失語症者の談話と固有名詞の理解
2003年1月
安田清
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